田中氏庭園(たなかしていえん)

旧津和野藩の城下町において、幕末から明治時代中期にかけて発展、成長した町民の住宅庭園である。通り沿いの用水路から敷地へ引き入れた水を利用した池泉回遊式庭園で、津和野城下の他の池泉庭園とも共通する特徴を持っている。近世以来の商家の名残をとどめた近代津和野における造園文化の発展を示す庭園である。


文化財種別:登録記念物(名勝地関係) 

〒699−5605
島根県鹿足郡津和野町後田ロ70
Tel:0856-72-1661


 田中氏庭園は旧津和野藩の城下町において、現在まで残されている約20におよぶ町民の住宅庭園の一つである。明治19(1886)年に製糸業を営んだ三浦五郎右衛門が主屋を建築した際に庭園の原形ができたと考えられている。昭和2(1927)年に絹織物で財を成した田中氏のものとなり、現在の庭園が成立した。
 庭園は、店舗と主屋の西南側に位置しており、座敷から観賞できるだけでなく、池の周囲を回遊できる池泉回遊式庭園である。庭園は通り沿いに建つ店舗・主屋と土蔵の間に設けられた表門から飛石を打った狭い前庭を経て、主屋と土蔵とをつなぐ渡り廊下に開けられた潜り門を抜け、津和野城跡の城山を背景とした緑豊かな池泉庭園へと至る。池の南岸には築山が造られており、頂部に据えられた立石と植栽された樹木とともに深山の趣を創り出している。前庭の飛石は主屋前面の沓脱石からの飛石と合流し、奥にある稲荷社と築山の頂部を経て池泉の周囲を巡って、随所に燈籠や庭石などの景物を楽しめるように造られている。